STORY OF SOWERCOAT
始まりは2015年、
日本のとあるアトリエでキャリア50年の“ 洋服デザイナー ”とイタリア帰りの“ 仕立て屋 ”が話していました。
仕立て屋「普段アトリエで何を着てモノ作りされてますか?僕はイマイチしっくりくる服が無くて困っているんです」
デザイナー「そういえば確かにしっくりくる服が無いよね、いつも自分の事は後回しで“ 紺屋の白袴 ”だ。これまで多くの服を作って来た、そしてこんなに世の中に服が溢れているが我々が仕事中に着たいアトリエコートは無いんだね」
仕立て屋「やはり無いですか、私の個人的な見解になりますが既存のアトリエコートで探すとだいたい2タイプに分かれてどっちも私には合いません。1つはアパレルメーカーがなんとなくアトリエコート風なデザインを普段着用に落とし込んだ服、これは実際のアトリエ使用を中心に考えてないので機能もデザインもやや中途半端に感じます。もう一方は作業服メーカーので頑丈なんですが、生地も作りもゴワゴワで固く不快で肩がこります」
「何より海外製の安い作業着を着てクリエイションをしたくないし突然のクライアントの訪問にも見せたくありません」
デザイナー「確かに我々の仕事は作業ではなくてクリエイションだ。よし、我々のような室内で仕事をするクリエイターのためのアトリエコートを作ろう」
仕立て屋「いいですね、クリエイターはこの世界に種をまく人いわばSOWERだと思います。ヴィンセントファンゴッホさんのSOWERをモチーフにしたブランドマークを掲げましょう、勇気もいただけます」
デザイナー「なるほど、SOWERCOAT という事だ」
こうして “ 自分たちが着たいアトリエコート ” 作りが始まりました。
それは、
“ クリエイションの質を高める服 ”
人生における仕事の時間
8時間/日、200時間/月、2.400時間/年、120.000時間/50年
この時間の質を高めるという事。
しかし、それからが大変な苦労の連続でした。
それはどんなデザインで生地で縫製なのだろうか?
“ 機能性と美しさを両立するデザイン ”の追求。
人間という生き物が快適で美しくいられる。着ていて気分が上がる。周りからの評価が上がるデザインとは?
それは自然界にいる昆虫や花のように自然なデザイン、とってつけたようなデザインではないデザイン。
まずは昔の洋服を振り返る事から始まりました、そして約100年前のフランスの衿との出会い。アトリエコートの研究。
「衿は人間社会において非言語で伝わる品格でありドレスだ。この服作りには欠かせない」
「衿を立てても後ろ首に沿うような絶妙のカーブになっているね、フロントの高さもしっくり、なるほど衿の外にスカーフを巻いた着こなしが格好良い。昔の人は考え尽くしてこのデザインになったんだね」
「着用者が下を向いたり横を向いたりしても不自由なく、なにより首が詰まって息苦しい感じはダメだ」
「昔は既製服もなく貴重な服を永く着続けるために傷んだ上衿だけ交換できるようにしたことがデタッチャブルデザインの起源みたいだが、このデザインは衿羽根が嫌いな人は上衿を外してスタンドカラーで着こなせる。自由でいいね。スタンドカラー部分はただの筒状ではなく襟ぐりに馴染む円錐形のカーブが必要だ」
「洋服前面はテーブルなどに当たりやすい部分、まずフライフロントで釦部分をカバーした上で釦形状は引っ掛かりにくい流線形がベストだ」
「そうですね、釦は白蝶貝が良いなどと言われますがテーブルやアイロンで割れやすいのであえて強度あるポリエステル釦がいいと思います。1.1cmの直径がベターです」
「フライフロントは表側に4.0cm巾、下側は3.0cmの段差をつけて、裾周りは2.5cmの折り返しで中縫代を1.0cmにすいてスッキリ、落ち感が出ます」
「何度ピン打ちで確認してもフロント釦間は10cmで8ヶ所がベストのようだね」
「胸ポケットは一般的なペンの規格である14.0cmを挿したときに底があたるようではダメなんだ、そして左右どちらの利き腕からでも気持ちよくアクセスできる位置取りはもう少し下だ。今回目指す着心地のためには腰ポケットに大きなモノを入れる事は推奨しないが、スッと人の手が気持ちよく入るサイズというのがある、それが横22.0cm×縦25.0cmだよ」
「胸ポケット腰ポケットともに上辺擦れやすい部分だけ二重にします、底の角をカットする事により中に入ったゴミなどが端に溜まる事を防ぎます。上品な印象と軽やかな着こなしを実現するために縫製カンヌキ留めなどは排除して0.1cmコバ×0.6cmのダブルステッチで縫い付けましょう。こんな繊細な生地をガッチリ縫製しても逆にそこが破れやすくなってしまいます」
「背中に関しては、必要な洋服の背中距離をボックスプリーツで畳む5.0cmが適量でハンガーループで抑え込む。ヨーク部分は生地が二枚に重なってを肩回り補強する。かといって屋外で雨に濡れる訳でもない、巾が大きいと上品さが失われるのでダメだ、だから背中の距離は7.5cmがギリギリの線だね」
「ボックスプリーツにハンガーループ。無駄がないデザインですね、アトリエコートを脱いでいる間はできるだけ肩幅厚めのハンガーにかけてもらいたいですが背中ループをサッとフックに通すのは画になりますね」
「ベルトは手にもってしっくりくる、締めてほどけにくい、ベルト姿が格好良い、全体のサイズとの調和が取れているか?4.0cmの巾で180cmの長さが一つの答えだと思うよ」
「カフスは袖と連動し、人間の動きに自然に寄り添わないといけない。カフスボタンを外さずに袖を通せるか?着る人の好みで袖をまくれる事も重要だ」
「カフスのカットは大きく丸くする事でテーブルなどへの当たりを緩和し、8.0cm巾で4回転はターンできます。半袖程度まで袖まくりしても安定するギリギリの厚さにカフス内の芯を調整しました、剣ボロ位置のガントレット釦をかけたままで袖をまくるとより安定します」
「アジャスト釦は外側で留めると一般的なジャケットの袖口幅サイズで手が通ります、キツイ方に釦をかけると手首あたりで固定する着こなしも可能です」
試作服を作っては調整、作っては調整の日々が過ぎました。
「これで全てのデザインが導き出されましたね」
「デザインは足し算でなく引き算の考え方が重要だ、我々の考える必要な部分以外を全て省き、最後に残ったフォルムこれがこの服のデザインだろう」
「全体のサイズに関してはどうでしょう、1サイズで大丈夫でしょうか」
「何度何度も調整した洋服の横幅、縦幅に対して全てのデザインもバランスをとらないといけない。
例えば、快適な動きを導き出すドロップショルダーと連結したAH、ヒジを通ってカフスまでが通るべき線を通った。
モノとして一つの完成形である以上これはこれでいい。
全ての人間のサイズを作らないのは不親切かもしれないが、全ての人間のサイズを作ったとして全ての人の好みは捉えられないんだから」
「現に180cmの私、170cmの君が快適に着ていて、150cmの妻もサンプルの袖をまくって気持ちよく着ている」
「確かに。まずこの服があって着たい人だけが自由に着ればいいんですね」
細部のデザインが集約し1つの答えに到達。
SOWERCOATのデザインが完成しました。
“ 生地を活かす縫製 ”の追求。
試作当初はイタリア製の高級ジーンズを縫うようなイメージで進めていました。
縫製強度を高めるカンヌキ留めや30番手のジーンズステッチなどを搭載した良い感じのアトリエコートがいくつかできました。
しかし、何かが違う。
それは悪い縫製という事ではなく“ 目指す洋服作り "とマッチしていない縫製でした。
「思い切って強度やエイジングを捨てないとこのデザインと素材を活かせない」という答えに辿り着くまでに多くの試作を行いました。
考えれば「室内で着るエレガントなクリエイションウエア」という原点に立ち返れば良かったのです。
“ 足し算でなく引き算で縫製 ”を見直しました。
皆様からしたら「なぜそんな縫製方法のズレが起こるのか?」と不思議に思われるかもしれませんが、縫製は単純に縫えばいいという事ではありません。
様々な素材で出来た様々な形の“ 糸、針、ミシン、アイロン "などの材料や道具を工程ごとに選び最適な方法で組み合わせます。
また、“ 縫う ”と言いましても、羊毛を縫うのか?ダウンを縫うのか?ニットを縫うのか?など洋服の違いによってまるで異業種くらい縫製の内容が変わる事をご存じでしょうか?
そこには億をこえる選択肢がでてくる訳です。
さらに、それはアイテム毎の差だけでなく同一アイテムでも驚くほど違います。
例えば、世の中のスーツやシャツにこれだけの価格差がある事はその証明の一つです。俗にイタリア服は手縫いの工程が多いなどと言われますが作りの中身を知ると確かに奥深い拘りがあります。
ただ、手をかけた高い服の縫製が最高最強という事ではありません。
あくまで“ この服は何を目指してるか?"
その目的達成のために“ 相応しい縫製 ”を導きだし選択する事だと思います。
多くの縫製を知っているとその選択肢の多さから判断を間違う事があります。
我々の理想のアトリエコートを具現化するには、高級ドレスシャツを縫う力が必要でした。
多くの既製品は効率を重視するため中国などで大量生産する事はご存じの通りです。人件費の安い国で大量の生地を重ねて一気に裁断し何百人の流れ作業で驚くようなスピードで縫い合わせていきます。
そうすることで店頭で安い服が買える事はいい事かもしれません。
しかしSOWERCOATはそれをやりません。
創業60年の高級ドレスシャツ工場と協力し納得するまで数えきれないほどの試作服を作りました。
高品質のデリケートな素材は慎重な裁断が求められます。
日本の瀬戸内海に面した工場では日本人職人が1枚1枚の生地を丁寧に裁断し、デリケートな生地をゆっくり細かく縫い合わせていきます。
ハイスピードで縫うとテンションが強くかかり生地が突っ張ります、特にデリケートな生地はふっくら縫う事で素材の良さが活きてきます。
デザインを型紙に落とし込む時にはカフスや衿も1種類ではなく、外回り内回りの差を出した違う大きさの型紙を用意します。違う大きさのパーツを縫い合わせる事によって立体を実現します。
縫製場の環境は清潔で綺麗な水が流れています。それによって真っ白な生地をアイロンプレスし、真っ白な洋服を作る事ができます。
これは精神論ではなく、我々の理想の服作りのために必要不可欠な条件です。
細部縫製が集約し一つの答えに到達。
SOWERCOATの縫製が完成しました。
“ 生地は軽さと柔らかさ ”の追求。
長時間着ても快適で人間の肌に触れる生地は
“ ふわっと軽く、しっとり柔らかい ”
仕立て屋が25年間で見聞し使ってきた“ 世界の綿生地 ”を全て一から再確認、膨大な量の綿生地メーカーから徹底的に目利きを重ね自然素材のピックアップに成功しました。
日本、スイス、イタリア、、、
この世界には素晴らしい品質の綿生地が存在します。
それはなぜでしょうか?
人類と綿の出会いは約5000年前と言われています、過去の人類の肌“ DNA ”が綿という自然素材との相性を覚えています。そして人間はより高品質な綿生地を求めて技術革新をつづけてきた歴史があります。
それは約5000年の研究とも言えるわけです。
よって、21世紀に入って地球史上最高品質ともいえる綿生地がある事は当たり前の結果かもしれません。
品質の高さに比例して価格が高価なため一般的な洋服屋には無く、普通に生活していたら目にしないような最高品質の綿生地がこの世界には存在するという事実があります。
一方で安価な綿生地でも普通レベルの生地がある事も歴史の一つの恩恵と言えるかもしれません。(他国の人や流通に無理な力がかかっていない事を祈ります)
このアトリエコートの基本モデルは日本生地を選択しました。
いわゆる作業着では使わない100番手以上の厳選した綿生地を使用しています。
これが作業着であればむしろ強くて厚い綿生地やポリエステルなどの化学繊維もいいと思いますが、このアトリエコートは作業着ではなく“ 着心地、肌への質感 ”を求めたクリエイションウエアだからです。
世界の生地メーカーからピックアップした綿生地の中にはイタリアの最高品質生地も入っています。基本モデルより品質の高い綿生地を希望される方のために少しずつラインナップに加えます。
上質な生地のデメリットとして物質としての脆さを伴いますが、着用している時間それは“ 代え難い気持ち良さに包まれる ”でしょう。
そして、綿生地のピックアップが完了。
SOWERCOATの基本モデルが完成しました。
“ デザイン と 縫製 と 素材 ”の追求。
振り返ると7年間の試行錯誤でした。
“ デザイナー と 仕立て屋 ”は言いました。
「さあこのSOWERCOATを着て頑張ろう」
この服が全てのクリエイターに喜ばれるかはわかりません、ただ、もしこのアトリエコートが“ あなたの創造 ”をサポートできたとしたら、こんなに嬉しい事はありません。
この世界のどこかにある“ あなたの仕事 ”に感謝します。